かもす人びと|01「川の流れに乗ってみた先には。20代で農業の世界へ。咲里畑 龍田春奈さん」

かもす人びと|01「川の流れに乗ってみた先には。20代で農業の世界へ。咲里畑 龍田春奈さん」

醤油は大豆と小麦と塩でできています。しかし、原料を混ぜただけではあの複雑で豊かな味わいは生まれません。そこには、麹たちが”醸す”仕事が欠かせないのです。ゆっくり、じっくりと時間をかけて、原料同士を分解し、なじませ、自分たちだけの味わいや深みを醸しだします。決して目立たないけれど、彼らがいなければ生まれないものーー

このシリーズでは、そんな麹たちのように、様々な分野の人をフィーチャーし、その人だからこそ醸し出される雰囲気や世界観、果たす役割について聞いていきます。


今回は、京都市の自然豊かな西京区大原野で、ご両親と一緒に有機野菜やエディブルフラワーを作り農業を営み、時には流しの「スナックはるな」のママもしている龍田春奈さん。ふんわりと優しい雰囲気を醸し出している27歳。彼女とご両親で作る野菜は本当に優しい味がします。話をしていると春の心地よい風が吹いているよう。以前は会社勤めだった龍田さん。その彼女がどうして農業やスナックにたどり着いたのか、自分自身の役割をどう捉えているのか、彼女のかもす世界を覗いてみましょう。



ーー現在はどんなことをされていますか?

今は、咲里畑(さくりばたけ)という京都市西京区大原野にある農場で、両親と3人で農業をしています。両親は、2017年から農業を始めました。私は、大阪で会社勤めをしていましたが、もっと自然の近くにいたいという想いから、約1年半前に退職して、畑を手伝うようになりました。咲里畑では、農薬や化学肥料などを使わず、食べると心も体も元気になる野菜や花を作っています。父が昔から花を育てるのが好きだったのもあり、エディブルフラワーにも力を入れていて、畑にはいろんな色が溢れています。平日は農作業や、レストランや八百屋さん、飲食店に野菜を納品したり、週末にはイベントやマルシェに出て野菜を売ったりもしています。

あとは、年に何回か「スナックはるな」という流しのスナックをやっていたり、お花屋さんでアルバイトもしています。花を売るのではなくて、市場で花を仕入れて旅館やホテルなどにお花を生けたりする仕事ですね。




ーー畑にスナックに、お花、面白そうなことをいろいろされてますね。それぞれをやっている中での楽しさや共通点があれば教えてください。

自然がすごく好きなので、畑もお花もやっていて幸せですね。ずっと京都の街中に住んでいますが、今畑をしている場所のすぐそばに祖母の家があって、自然がいっぱいで小さい頃からよく遊びに来ていました。両親もアウトドアや山登りが大好きで、よくキャンプとかにも連れてってもらったのも影響が大きいです。そんなこともあって、畑にいるときパッと見上げれば空が大きくて、空と大地の間で、土に触れているととても気持ちが良いです。

あと、スナックや他のものもそうですが、母親譲りの好奇心旺盛な性格もあって、面白そうなことはなんでもやってみたい精神で始めているのは共通ですね。人が好きなのでいろいろな人と触れ合えるのもすごく楽しいですね。


ーー以前は会社勤めということですが、当時すでに畑などをやりたかったのですか?

いえいえ、全然思ってもなかったです。初めて務めたのが大阪の病院の事務で。一日中建物の中にいるので、外の景色や天気もわからないからなんだか自然が恋しくなりました。

3年半ほど働いている中で、人間関係も恵まれていて楽しかったんですけど、「もっと違う働き方もしてみたい。」と考えながらすごしていました。その頃に、働き方を勉強する学校に通って、いろいろ面白い働き方をしている人を見たことも大きかったですね。

そんなさなかに、昔から農業に興味があって社会人向けの週末農業学校を卒業した両親が、いきなり畑を始めて(笑)

もともと私は京都が大好きで、地元に帰った際に両親の畑を少し手伝うようになったら、段々楽しくなってきたんですよね。やっぱりこういうことがしたいなあと思ったんです。それで会社を辞めて京都に戻り、両親と一緒に畑をすることにしました。このご時世、働き方で縛られるのも合わないし、好きなことだけしたいなあと思って。


ーー農業は自然な流れだったんですね。畑以外にも、スナックはるなをやられていますが、どんな経緯で始めたんでしょうか?

就職活動の時にさかのぼるのですが、当時は「あなたのやりたいことは何ですか?」を良く問われるのがストレスで(笑)たまたま所属していたゼミにゲストに来られた方に就職相談をするようになって、その方が”場づくり”をしていた人だったんです。その人の周りに集う人を見ているとみんな話を聞いてほしいんだなあ、みんな言いたいけど親にも職場でも言えないようなことがたくさんあるなと強く感じました。

それと同時に、自分もそういう「羽休め場所」を作りたいなと思い始めました。そんな思いはあったものの、どういう形にしていこうか動き出せず、就職して働いていたんですが、そんな時にたまたまTwitterで働き方を学ぶ「世界文庫アカデミー」を見つけたんです。そこでは面白いことをしている講師陣から学ぶとともに、自分たちのやりたいことをみんなの力でカタチにすることになっていて。実家からも近いし、働き方にもやもやしていた頃だったこともあって面白そうだなと思って通い始めました。

そこでふわっとしか考えていなかった”羽休め場所”が、気づけばいろいろな人の力を借りて、流しの「スナックはるな」になっていました。




ーーその肩ひじはらない優しい雰囲気がぴったりですが、最初からそういう役割があっているなと思っていましたか?

私、人からネガティブな話を聞いても全然落ち込まないんですよね。フットワークが軽いとか、明るいとか言われたりします。でも、周りには頑張ってすごく辛そうにしてる友達が多くて、もっとみんな楽に生きられたらなとは思ってました。そういう性格もあって、スナックっていう形は合ってたんだなと思います。

でも昔は、自分からピカピカ光っているようなリーダー的存在に憧れていた時期もありました。大学生時代に村・留学などを運営している教育事業系団体にも所属していたんですけど、そこでいろんなプロジェクトにチャレンジする中で、ぐいぐい引っ張っていくんじゃなくて、零れ落ちないようにすくってあげる方が合ってるかもしれないと。それならリーダーじゃなくて、リーダーの人と周りをつなげる役割をしようと思ってからは楽になりましたね。だから、今でも自然体でできていると思います。



ーーリーダーばかりでは成り立たない、サポーターやフォロワーも必要ってことですよね。畑ではどのような役割なんでしょうか?

自分のことを「咲里畑とどけ人」って言ってるのですが、畑にいる時の喜びや、美味しい野菜を食べた時の喜びを届けられる人になりたいなと思いながら、SNSで発信したり、周りの人に伝えたりしています。

この前も、友達とご飯を食べに行った時も、気になったらついお店の人と野菜の話をしてしまうんです。この野菜はどこで採ってるとか、私も農業やってるんですとか。でもそういうところから繋がったりすることもありますね。

きっと私だからこそ届けられる層もあると思うんです。友達やお客さんでも、私が農業をしているというとすごく興味を持ってくれる人も多くて。思っていた以上の反応でびっくりします。同世代や若い人もよく来てくれます。月に1度オープンファームデイという季節の野菜の収穫や農作業を体験できるイベントを開催しているのですが、中高生や小さい子供も来ます。「自然に癒やされたい、土に触れてリフレッシュしたい。」とか、「子供に野菜のありのままの姿を見せたい、美味しい野菜を食べさせたい。」と親子で参加される方々も多いです。一緒に農作業をすると、距離も縮まりやすいですし、いつもとても楽しいですね。


ーーほんとに自分の野菜が好きなんですね。大変なことや、嬉しかったことなどありますか?

やっぱり夏の猛暑は大変ですね。あとは仕事とプライベートの境がないので、休みがあるようでないような状態ではなく、自分たちが精神的にも余裕をもった状態でいるのも大事だなと痛感していて、定休日はつくるようになりました。農業は天候に左右され大変な面もありますが、俗にいう人間関係のストレスがないので楽です。人間相手の方がよっぽど大変だと思いますよ。


あと嬉しいのは、単なる消費者だったのが、好きな飲食店や憧れの料理人に自分たちの野菜を提供できるということですね。実際にそういう人から褒められたり、逆にリスペクトしてもらえたり、もちろん、個人のお客さんに美味しいって言ってもらえるのもすごく嬉しいです。それこそが生産者の醍醐味かな。



ーー毎日楽しんでいるのがすごく伝わってきます。そんな今の自分から、昔の自分にメッセージを送るとしたら?

まさか農業をやるとは思ってもなかったと思うけど、あの時のモヤモヤは無駄じゃなかったと言いたいですね。そのおかげで働き方を模索して、いろんな人に出会って、たくさんの刺激をもらって今に至ると思うし。なにか一つのゴールを目指すんじゃなくて、川の流れに乗って、その時に興味があることに飛び込んでほしいです。「なるようになるよ」と言ってあげたいですね。

そして、必ずしもやりたいことがないといけないわけでもないし、自分がいる環境をどれだけ面白がれるかもめちゃくちゃ大事だと思います。頭でっかちに考えているよりも、今目の前に与えられ仕事をこなしていく中で、それを楽しんでやっていようという風に切り替えた方が圧倒的に楽しくて。その方が絶対人生楽しい。とにかく文句言わないで、自分ならどうやったら楽しめるかを考えてほしい。楽しさを追求していったら好きなものにもたどり着けるはず。自分のやりたいことがなくても、いいなと思える人をサポート出来ている人が素敵だなと思うし。そういう人がいてこその輝きもあるよと伝えたいです。


ーーこれからはどんな流れにのるのか楽しみですね

そうですね、ひとまずは畑を頑張っていきたいですね。体験農園も充実させたい。それに農業ってとても深いので、オーガニックだから本当に安全なのかとか、気候変動が問題となる中で、これからどんな野菜を作っていけばいいかとか・・・いろいろ知識はつけていきたいなと思います。あとは、その時楽しいなと思えることをやっていけたらなと。


(編集後記)

すごく前向きだけど、全然肩に力がはいっておらず春先のやわらかい木漏れ日のような自然体な龍田さん。インタビュー当日も、穏やかなご両親と一緒に和気あいあいと作業をされていました。朝から晩まで、住まいも仕事も、夕飯の買い物でさえも3人で一緒。その日は弟さんも仕事が休みだったのでおばあちゃんの家(作業場)にくるという仲の良さ。ケンカもするけど、家族だからやっていけるんじゃないかな?というのがとても印象的でした。


農業も、醤油造りも、出来上がるまで長い時間がかかります。自然の中で日々変化があり、その土地に根差した暮らしが営まれます。自分でコントロールするというより、自然の中で生かされていると言う感覚。こういう生き方は、この時代だからこそ多くの人を惹きつけるのかもしれません。
フィールドは違えど、安心安全な美味しさを届けたいという想いは同じで、味わいもどこか近しさを感じます。龍田家が作る優しい味の野菜、ぜひ食べてみてください。

咲里畑PV:
https://m.youtube.com/watch?v=930w7mdS-rk&feature=youtu.be

Instagram: @sakuribatake

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オンラインショップ: http://sakuribatake.theshop.jp

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